講演会:山下英三郎さん「子どもの関係世界と修復的アプローチ」

質疑

A:山下さんの居場所での実際の経験について、もう少し聞かせてください。

山下:居場所での経験については、少し以前のことになりますが、盗難や子どもどうしのケンカなどトラブルもありました。子どもどうしでも力関係の差もあったり、難しいこともたくさんありましたが、結局は子どもの関係のなかで軽減していったように思います。大事にしていたのは、排除しないといことです。とくに年長の子が年少の子に対して何かしてしまった場合、年少の子のほうは恐怖感が大きいですから難しいですが、年少の子へのケアをしながら、加害した子も排除しませんでした。排除しても問題の解決になりませんから。その子も、ほかに居場所がなくて来ている。ここで排除しても、別のところで問題を生み出すだけです。むしろ、くりかえさないように関わっていくことが必要です。ある年長の子は「オレに来るなと言えばいい」と言いました。しかし、絶対に「来るな」とは言わなかった。「君がここを必要として来ているんだから、来ていいんだ」と。それがどこまでうまくいったか、検証はできていませんが、そういうかたちで悪戦苦闘しながらやってきました。少なくとも事態を悪化させることはなかったです。話し合いの意味はあったと思います。

B:最近は親御さんの状況も不安定になっているので、学校とも連携をとる必要性を感じていますし、学校も以前より対応してくれるようになったと思います。フリースクールなど民間の居場所が学校と関わることについて、意見をお聞かせください。

山下:たしかに最近は、学校も手詰まり感があって変わってきていますね。私たちのころは、民間の居場所が学校と関わるのは、なかなか難しかったですし、そこが課題でした。学校にとっては異質な存在で、不審がられていました。いまは、学校とは連携しやすくなってると思いますが、一方で、学校が責任を持たずに、外側に責任を丸投げすることも増えていると思います。トラブルが起きているケースでも、本人の話でていねいに話を聞かず、緻密さに欠けているために、感情が悪化したり激化していることが多いです。最初に、きちんと誠実に話を聞くことが大事です。協力することと同時に、当事者性はどこにあるか、問い返していくという姿勢も大事かなと思います。

C:大阪で、フリースクールに関わっています。9月になって学校で問題があって行けない子の親が複数、ひんぱんに相談に来ます。夏休みが終わって、やっぱり行けない。現実にあわてている。相談に来る人の背後には、もっとたくさんの学校に行きづらい子がいます。相談を聞いていると、いかに学校が荒れているかが、うかがえます。学級崩壊していて、勉強したくても行けなかったり、若い担任の先生がいじめられていたり……。子どもの安心・安全に学ぶ権利が侵害されているのに、何も学校は処置していない、見て見ぬふりのように思います。SSWなどをつくっても、学校の側の体制がどう改善するのか、その展望を知りたいです。学校は、問題を出すまいとして子どもを抑圧しているように思います。

山下:SSWは、子どもの権利擁護のためのシステムのはずが、配置されても独自性を持てずに、学校側の利益のために動いてしまっていることも、たしかにあります。雇用関係にある上、基盤が脆弱ですからね。原点にもどって、ちゃんと行動しないといけないと思います。自分の身分を確保するためではなくて、子どもの側に立つことができているかどうか。SSWは、広めるよりも、活動の質を確保し、深めて高めていくことが大事だと思っています。それは、私自身、SSWを推進してきた責任として、そう思います。

しかし、学校がなかなか難しいのは、ずっと以前からですね。一挙に変えるのは難しいですね。しかし、一点突破はできると思います。修復的対話についても、いま、ある教育委員会と契約しています。その市では、修復的対話の研修を各学校でやっている。ロールプレイなどもやって、その教委ではモデル校を来年度指定して、サークルを日常的にやっていこうという話になっています。教員とファシリテーションを勉強することもやり始めています。教育長自身が、今までの教育のあり方は、子どものニーズとずれているという認識を持っている。ほかにも、都内で1カ所、関心を持っているところがある。一つひとつ、かたちとして広げていくことが現実的だと思います。

D:とても示唆に富んだお話でしたが、実際問題として、対話のルールを守ってくれない人が来たとき、排除したくなりますし、葛藤がすごくあります。

山下:ファシリテーションをする上で難しいところですね。ある人がほかの人の機会を奪ってしまう場合、ぜんぜん話ができないとき、どうするか。話をよくする人であれば、なんらかのメッセージを発するので、そのなかで言葉をつないで返していくことはできます。サークルのなかでは、ファシリテーターも意見を言っていいですし、トーキングピースは役に立ちます。構造として工夫を入れていくことで、改善することはあると思います。

E:フリースクールのスタッフも教師もSSWも、生身の人間ですから、自分の感情をはき出せる場が必要だと思います。自分へのケアが大事。全力でやるとバテるので6割くらいの力で関わることができればと思います。

山下:相談者として大事なこととして、私はいつも、「自分をいい状態に保つこと」と言ってきました。自分のなかにも怒りや悲しみ、ネガティブな感情がある。そのまま相手に向かうと、相手の話を聞けなかったりする。だから、自分をいい状態に保つことが大事です。しかし、それがきわめて難しい。でも、意識することで、ある程度、コントロールできる。感情的になることがあっても、この場では出さずに、ほかの場で出すとか。相談者に向き合っているときは出さなくてすむような工夫。冗談で「相談の仕事は健康にいい」と言ってます。つねに、自分をいい状態に保とうと意識するので(笑)。

F:子どもから学んだ経験のエピソードを教えてください。

山下:具体的にパッとは出てきませんが、子どもたちの力は、いっぱい感じてきました。自分がサポートしてきたというより、むしろ世話になった、子どもたちからもらってきたと思っています。とくに、子どもたちの柔軟性には感服してきました。自分が傷ついたり苦しいときにでさえ、私を受けいれてくれた。その心の広さに支えられてきたんだと思います。

G:若者の居場所に関わってます。対話は、子どもどうしだけではなく、若者どうしでも難しいです。今日のお話は、採り入れたいと思うことたくさんありました。準備が大事とおっしゃってましたが、自分のほうで準備と思っても、相手にも準備がいりますよね。いま、対話したいと前のめりになってるんですが、そんな私にアドバイスを。

山下:みんな前のめりになりますよね。私もなります。その気持ちにいかにブレーキをかけるか。解決を急がないことです。世間では早期解決とか言いますが、急いで解決をはかってうまくいくことはないです。根本的な解決にはならない。時機とかタイミングは向こうからやってくるので、そのタイミングを逃さないことだと思います。アンテナをはっておいて、時機を待つことでしょうね。人間のコミュニケーションはノンバーバル(言語ではない部分)が3分の2をしめると言いますし、相手がそれを感じてサインを示すことがあると思います。

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