講演会:森田ゆりさん「エンパワメントと子どもの人権」

怒りの仮面

いろんな困難、痛みを抱えてきた子どもたちのなかには、行動を怒りで発揮してしまう子どもたちも少なくありません。みなさんも、攻撃性に向き合うことが少なからずあるかと思います。ほかの子に暴力をふるってしまうとか、DVの家族であったり、すぐに暴力をふるう父親との面談など……。そういうときには、この怒りの仮面という図を思い出していただきたいです。私の研修に来られるカウンセラー、特別支援学級の教師、児童精神科医、DV被害者支援者たちが役に立っていると報告をくれます。



私は、怒りには二種類あると考えてます。ひとつは健康な怒りです。怒りは、本来健康な感情です。人は許せないことがあると怒る。たとえば、いまの政権への怒り。憲法9条改正などにも腹が立つ。大事な人権を簡単に変えてくれるなと思う。それは何かといえば、自分にとって大切なものが脅かされているから怒るわけです。怒りは、自分にとって何が大切かを教えてくれる。『気持ちの本』に、次の絵(下図)を載せています。

『気持ちの本』童話館出版より

これは健康な怒りですね。小学校1年生の絵です。ピアノが後ろに見えますが、親が練習しろとうるさいって言う。「しようと思っているときに言われると腹が立って、耳から煙りが出てくる」。おてんとさんもいっしょに怒ってくれている、健康な怒りで、ここには裏も表もありません。言葉で、絵で表現したら消えてしまうような怒りです。

もうひとつの絵を見てみましょう。こちらは小学校4年生の子の絵です(下図)。

『気持ちの本』童話館出版より

つり上がった目から涙が出ています。これは心理学では二次的な怒りと言われるものです。怒りの仮面とは、このタイプの怒りのことです。攻撃性、暴力がある表面は怒りなんです。でも、それは仮面にすぎない。ちょっとズラしてみると、裏側には泣いている顔がある。怒りの裏側には、恐れや不安や見捨てられ不安などいろんな感情があって、いっぱい、いっぱいになっている。こういう感情が、その人の人生の傷つき体験から生まれている。その絶望感や不安がケアされないままになって、圧縮抑圧されている。そうすると、外からのちょっとした刺激で噴出する。たとえばある夫の場合、妻の帰りが遅いという理由だけで、怒りがコントロールできなくなる。妻の行動が、彼の仮面の裏側を刺激する。これが爆発すると、怒りの仮面が暴力的な行動を引き起こしてしまいます。

仮面の裏にある感情に

虐待を受けたことで、発達障害と似たような症状を出している子どもも少なくありません。とくに多動性、暴力性などですね。そのとき、やめなさい、静かにしなさい、黙りなさいと抑え込もうとすると悪循環が始まります。あくまで仮面であるということを理解して、その裏側の気持ちを推測してみることが大事です。ときには、それをこちら側から言ってみてもいい。「いま、○○ちゃんは、お友だちがそばに来ると怖い気持ちになるのかな?」とか。

怒りの裏側の感情を自分で観ていくこと。それは勇気のいることです。だから、その作業をヘルプしてくれる人がいることが大事になってくる。とくに男性にとって、仮面の裏側をみることは怖いことです。誰かをコントロールすることで自分は強いんだと思ってきた人が、自分の弱さを認めることは難しい。あるいは、少年時代に怖かったことなどを思い出さないといけない。それをしないと、怒りの仮面は、なかなかなくならない。私の経験では、DV加害者のなかには、親から厳しい体罰を受けてきた人が多いです。本人は、親から体罰を受けてよかったと思っている。そういう人が、小さな少年の自分を思い描いたとき、どれだけ怖かったか、さみしかったか、そういう自分に泣いてあげる。そういうプロセスが必要です。

時間になりましたので、傾聴力や共感について、まだお話できていませんが、割愛させていただくとして、質疑にうつっていただければと思います。

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