インタビュー:栗田隆子さん「呻き、対話、うっかり」

インタビューを終えて

 迷いと矛盾がいつもある。
 自分の生活の安定を得たい、それを守りたいと願う一方で、「自分さえよければそれでいいのか?」という声が聞こえている。もともと、たいして強い人間じゃないから、言葉にも声にもならない痛みや弱さ――栗田さんが「呻き」と名付けたもの――には、自他を問わずに共鳴するし、その結果、ずきずきと痛みもする。
 一方で、現代社会のなかで自分の居場所がほしい、それを勝ち取りたい、戦ってでも守りたいと思う自分もいる。
 痛みに共鳴する自分と、そういうやっかいなものにふりまわされるのはごめんだと、疎ましく感じる苛立ちとのあいだで、気づけばいつも引き裂かれそうになっている。
 私たちはたぶんきっと、戦いたくないのに戦っている。誰のことも蹴落としたくないと願いながら、自分が蹴落とされるのは怖くて仕方がない。
 けれど、矛盾や迷いとさえも、臆さず対話ができたのならば?
 そんなふうに思ったとき、自分の内に風が通った気がした。冊子を完成させるにあたって、くりかえしインタビューを読み返した。その一度ずつが、気づけば私にとって自分自身との対話になっていたのだと思うし、そのうちの何回かは、私自身を超えた「何か」との対話にまで拡がっていった。
 そう考えると、栗田さんはますます巫女のような存在として、あるいは日常をふっと通られる天使のように、私の内でおいしそうにケーキをもぐもぐと頬張っておられるのであった(※今回のインタビューは、お茶とチーズケーキをお供に行われました)。 (野田彩花)

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「呻き」
 呻けない自分がいる。呻きを忘れた自分がいる。
 言葉になる以前の呻きすら抑圧してしまう自分がいた。
 栗田さんの著書やインタビューが、ふたたび呻くきっかけを自分に与えてくれた。
 呻きは不登校で言えば、自分でもわからないけど登校できない状態と似ていて、身体的にNOと言っているのとつながっているのではないか。しかし日々の生活では呻く機会すら奪われ、心に蓋をさせられることもある。社会で抑圧された人々が〝正しく〟呻き始めることで、また呻くことがゆるされる場があることで社会は少しずつ変わっていくのではないだろうか。

「祈り」
 祈りの話では、自分の感情や醜さに対して、祈りのなかで正直に認めればいいと教えられ、気持ちが楽になった。自分に嘘をつかないことは他者に嘘をつかないことに通じる。それが信頼関係につながっていくのではないだろうか。

「対話」
 栗田さんがおっしゃるように、お茶を飲んでおしゃべりしながらケーキを食べる。そんな一時が増えれば、自然と人の心もゆるんで、余裕が生まれ、対話ができる土壌が耕されるのではないだろうか。

 栗田さんのインタビューに参加させていただいて。
 祈りや対話によって培われたであろう栗田さんから溢れ出す言葉の数々、豊かな発想と鋭い主張。栗田さんは嘘を見抜き本質を見抜く力を持つ方だと思いました。同時に栗田さんの「うっかり」が、見過ごされがちなものに注意を向け、窮屈な今の時代をほぐしていってくれるのではと思います。最後にお話を聴かせてくださった栗田隆子さんにあらためてお礼申し上げます。 (柳大地)

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「インタビューを終えて」と言っても、もう10カ月近く経ってからこの文章を書いているのだが、そのあいだ忙しさにかまけて、「祈り」や「うっかり」とはずいぶん遠い生活をしていたように思う。
 インタビューを読み返してみて、栗田さんの「祈り」が日常のなかに組み込まれた実践的なものであることにあらためて興味を感じた。夜勤明けの日は頭も身体も疲れ果ててしまって、本を読んだりものを考えたりするのも難しいような生活だけれど、そのなかで5分でも10分でも、栗田さんにとっての「祈り」のような時間を持つことができれば、大きく道をあやまることはないのかもしれない。
 栗田さん、またいつかお茶とお菓子でおしゃべりしましょう(柳さんが持ってきてくれたシトー会のガレットもとても美味しかったです)。 (森下裕隆)

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 栗田さんとは同じ齢で、つまりはロスジェネ世代(もやは死語か?)で、同じ時代状況を生きてきた感がある。問題意識を持ちつつも、そして、自分たちなりに活動をしてきても、むしろどんどん厳しくなる社会状況のなか、自分たちも40代半ばを過ぎ、それでも「呻き」のところに立ち続ける。それは、強い意志を持っているというよりも、むしろ逆で、そうとしかできない、ということなのかもしれない。もちろん、栗田さんの見てきた風景と私が見てきた風景は同じではない。でも、やっぱり、このへんが切り捨てられないから、いつまで経ってもうだつがあがらないし、でも、そのうだつのあがらなさに共感してしまうのだよな……と、あらためて感じたインタビューだった。栗田さんは、今年(2019年)春から、関東にもどられるとのこと。距離は離れても、うっかり同盟で、いつかどこかで、うっかり何かでごいっしょしましょう。 (山下耕平)

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